東アジア農業史学会参加の記(藤原辰史)

9月25日から26日にかけて、中国の広州にある華南農業大学で「東アジア農業史学会」が開催されました。二日間で70を超える発表があり、ひとりあたり10分の発表時間しかなく、質疑応答の時間も実質ゼロで、発表者には苛酷な条件でした。来年は、北海道網走にある東京農業大学で開催予定です。発表時間はもっと長くなるはずです。ご関心のある方はぜひ参加してみてください。 全体のテーマは、水稲、水利、水運。あらためて、中国農業史研究の層の厚さを体感することができました。この研究会のメンバーである原宗子先生のお知り合いにもたくさんお会いできました。河川の水位を計る石像、水車の研究、畑を田圃にかえる政策の歴史、広東地方の水利水運、などなど、テーマも多彩。日本では、松本武祝先生の「日本列島における水田開発の展開過程」、伊丹一浩先生の「19世紀南アルプ地方における灌漑組合」が環境史的テーマでした。 以上、簡単ではありますが、ご報告まででした。

イギリスのルーラルヒストリー学会参加の記(藤原辰史)

 もはや三ヶ月もまえのことですが、9月13日から16日までブライトンのサセックス大学で開催されたルーラル・ヒストリー2010に全日参加してきましたので、環境史との関係から、いくつかレポートを── (1)ヨーロッパ・ルーラル・ヒストリー学会がの創立が、15日の会議で決まりました。学会長はProf.Richard Hoyleです。アジア・アフリカは除外されていますが、参加はウェルカムということ。次回は2から3年後ということですので、みなさまもぜひ、参加・発表してみてください。 (2)もっとも環境史に近いセッションとしては、Agricultural research, peasant farming and the Green Revolutionというものがありました。これは、マンチェスター大学のProf. Jonathan Harwoodがオーガナイザーをしたもので、グリーンレボリューションを歴史的に読み直そうとする試みでした。イギリスの植民地での育種、ソヴィエト・ロシアの育種学などなど、興味深い内容でした。Harwoodさんは日本の品種改良にも興味をもっておられたので、以前からメールでやりとりしていたのですが、品種改良は環境史のテーマとしても重要なものだと再認識しました。ほかにも、有機農業の歴史、水利、オランダの干拓と農民、イングランドとウェールズの景観政策、林業家のオーラルヒストリー、農業経営類型分布の視覚的分類、農民のイメージ論、農村のメディア論、「ファシズムと近代」再審(私はこのセッションに参加したのですが)など、農業史の対象や方法の多様化を感じることができました。従来型の文献史学も健在ですが、統計やグラフィックなど高度なコンピューター技術が使用されているものもあり、驚きました。また、経済学的分析のみならず、文化史的分析も多く、個人的にはたいへん参考になりました。

環境史研究会第4回ワークショップ

環境史研究会の世話役をされている東京大学の竹本太郎さんからの研究会案内です。 みなさまいかがお過ごしでしょうか。 本郷キャンパスはイチョウの黄葉がまぶしい季節です。第4回環境史研究会ワークショップのお知らせです。 今回は、「大戦間期イギリス帝国における保全思想」について水野祥子さんが、「絵図から見た近世白神山地の植生と林野利用」について脇野博さんが発表されます。 奮ってご参加ください。 【日 時】 2010年12月18日(土)14時から 【場 所】 東京大学農学部1号館 1F農経資料室 *前回(第3回ワークショップ)と場所が異なりますのでご注意ください。1号館正面玄関入ってすぐ右前方の部屋です。 【発表題目と概要】 「大戦間期イギリス帝国における保全思想」 水野 祥子(九州産業大学) 本報告の目的は、大戦間期イギリス帝国における環境危機論の分析から、科学者/官僚の間で均質な保全思想が形成されるプロセスを検証するとともに、 その特徴を明らかにすることである。かれらが環境危機のメルクマールとして最も重要視したのは、土壌浸食であった。本報告では、「サハラ砂漠の拡大」をめ ぐる論争などをとりあげ、1930年代までに林学、生態学、地理学など多分野にわたる科学者の間で、土壌浸食は人間の誤った活動によって引き起こされると いう認識が共有されるようになったことを示す。さらに、この保全思想のなかで自然と人間との関係がいかに構築され、植民地の原住民の活動がどのように位置 づけられたのかを問う。最後に、かれらが各地域の問題をグローバルな環境危機の一例とする言説をつくりだし、荒廃地域が拡大すれば世界の人口や文明を維持 するための資源・食糧の供給が限界に達するという危機論を唱えていたことを指摘する。 「絵図から見た近世白神山地の植生と林野利用」 脇野 博 (秋田工業高等専門学校) 世界自然遺産として著名な白神山地であるが、近世の白神山地についてはこれまでほとんど研究がなく、どのような状態であったかは不明である。そこ で、近世に作成された山絵図などを用いて、当時の白神山地の植生や林野利用について、その一端を明らかにしたい。なお、近世の白神山地は秋田藩領と弘前藩 領に属するが、本報告では秋田藩領の白神山地を主として取り上げ、以下の側面から検討したい。 ①「秋田藩の林政と林業」: 秋田藩の林政・林業の歴史を概観し、森林の状態や利用の特色を見る。 ②「絵図に描かれた白神山地」:秋田藩・弘前藩が作成した国絵図・山絵図などから、白神山地の植生、林野利用や生業のようすを探る。

国際研究支援センター研究会シリーズ第2回のご案内

国際研究支援センター(CIRC)研究会シリーズ 第2回   明治憲法の思想:上杉愼吉   香川大学インターナショナルオフィス国際研究支援センターでは、香川大学における国際的な研究活動の推進のため、研究会シリーズを開催しています。研究会は、国際的な研究を実施しているもしくは実施を希望している方々の報告を聞き、参加者の間で活発な議論を展開し、それぞれの研究の発展へとつなげることを目標としています。 今回は、大正デモクラシーに反発したことで知られる大正・昭和初期の東京帝国大学教授、上杉愼吉の思想を研究しているノイマン・フロリアン先生(大学教育開発センター)に報告して頂きます。 オープンな研究会ですので、皆様お気軽にご参集ください。                     記   日時:12月1日(水)14:40~16:10   場所:幸町キャンパス     遠隔教育調査研究室(教育学部2号館2階) 医学部キャンパス              臨床講義棟2階 工学部キャンパス              管理棟2階 大会議室 農学部キャンパス              BW106   プログラム   14:40 挨拶(国際研究支援センター センター長 村山聡) 14:45 報告「明治憲法の思想:上杉愼吉」(大学教育開発センター 講師 ノイマン・フロリアン) 15:25 質疑応答(ディスカッサント:教育学部 教授 武重雅文) 16:05 閉会の辞   ※本研究会は参加無料、事前予約不要です。   問い合わせ先: インターナショナルオフィス 細田 hosoda(あっと)cc.kagawa-u.ac.jp 国際グループ 宮下/野田 kokusait(あっと)jim.ao.kagawa-u.ac.jp  

環境史研究会第3回ワークショップのご案内

第3回環境史研究会ワークショップのお知らせです。 今回は環境政策史に関する発表を喜多川さんが、1930年代の中国における植林・緑化・造林政策に関する発表を村松さんがなさいます。 奮ってご参加ください。 【日 時】 2010年10月2日(土)14時から 【場 所】 東京大学農学部1号館 農経会議室 *前回(第2回ワークショップ)と同じ場所です 【発表題目と概要】 「環境政策史研究の構想と意義」    喜多川 進 (山梨大学) 近年、環境問題への関心が高まるなか、様々な学問分野で環境政策の内容や運用の実際をめぐる研究がなされるようになったが、環境政策がどのような過程を経て成立するに至ったかについての研究は、十分になされていないのが現状である。すなわち、環境政策の誕生背景、政策過程、その後の変遷を、政治的、社会的、経済的文脈のなかに位置付けて歴史的に研究することは、特にわが国ではほとんど注目されてこなかった。そこで、本報告では環境政策の展開を歴史的に考察する「環境政策史(Environmental Policy History)」という新しい研究分野の可能性と意義を議論してみたい。 本報告は2部構成である。第一部は方法論編であり、環境政策史の概要、方法、学問的位置付けを議論する。その際、環境史、環境経済史等の環境問題に関する歴史研究と環境政策史研究の比較もおこなう。第二部では環境政策史のケース・スタディとして、ドイツの廃棄物減量化政策をとりあげる。ケース・スタディを踏まえて、環境政策史の意義と課題を考察したい。 「近代陝西省における植林・緑化政策」 村松 弘一 (学習院大学東洋文化研究所) 本報告では、1930年代の南京国民政府期の陝西省の植林・緑化・造林に関する政策に焦点を絞り、全国経済委員会・省政府・西京籌備委員会という行政レベルの異なる機関の計画・実施状況を比較する。それは黄土高原の地域ごとの生態環境保全の方法について考える材料を歴史資料のなかからよみとる試みでもある。 ※ 報告者は中国古代の環境史を研究しているが、近年、環境法の執行とガバナンスにかかわる研究会に所属している。今回は、その研究会での報告を基礎に森林史・林学の研究者が多く集まる本会にてご意見をお聞きしたいと考え、本テーマを報告することとしました。

環境史研究会第2回ワークショップのご案内

すでに連絡を差し上げましたが、報告のタイトル、場所等が決まりましたので、改めて連絡させて頂きます。なお、この研究会は会員による研究会ですので、参加を希望される方は、村山または竹本までご連絡ください。 【日時】7月24日(土)14時〜 【場所】東京大学農学部1号館3階「農経会議室」 【報告】「中国環境史研究の現状と課題」原宗子(流通経済大学) 「森林景観の環境史 —明治・大正期の長野県諏訪地域を中心に—」若林洋平(上智大学) 原先生からは要旨もいただいております。 *********** この研究会の第1回ワークショップに参加させて戴き、参加者の多くが、日本史研究者であられることを改めて承知しました。 中国環境史は、日本で研究しておいでの方はまだ少数ですが、中国では、かなり広がりのある研究分野です。尤もその多くは、90年代頃までの<農業史>関係組織が、発展的に改革されたもののようですが、若い方たちは無論、新たな意欲と関心のもとに意欲的な論考を発表しておいでで、様々な研究の広がりが見られます。私自身も70年代に、やはり<農業史>のつもりで書き始めた愚考を、自分では、当初<世界史>に対する<地球史>という用語を使おうか、と思っていたのですが、それでは自然科学分野の地球科学との差異が不明確であることなどに気付き、あれこれ模索するうち、やがて結果的に、日本ではまだ珍しかった<環境史>に位置付けられた、という経緯の下で、勉強を進めています。 このような点を少々お話させていただき、特に、中国環境史の史料のあり方、扱う上での問題点、自然科学分野との連携のあり方、今日の中国環境問題との関係性如何、といった諸点について、内容的には、土壌・森林・気候変動・農業生産や水利史との関係、等々を中心に雑駁ながらご紹介するつもりです。 御参加戴き、ご批正賜れば、幸甚です。 ***********

環境史研究会第2回ワークショップのご案内

以下の日程で環境史研究会第2回ワークショップを開催する予定です。このワークショップは環境史研究会のメイリングリストに参加して頂いている会員の方々に限定したものです。環境史研究会に参加を希望される方は、村山、竹本ほか発起人に連絡して頂けますようにお願い致します。なお、今後ワークショップは2ヶ月に1回開催する予定にしています。 現在のところ、日程と報告者が決まっております。詳しい内容はまたお知らせします。 第2回ワークショップ 日程:7月24日(土)@東京大学 報告者: 原宗子(流通経済大学) 若林洋平(上智大学)

環境史研究会第1回ワークショップ

日程:5月15日(土)1400〜1800 場所:東大農学部1号館(部屋未定) 発表内容:村山聡「近世天草漁師町・湊町崎津の比較史料学的環境史研究」(仮) 戸石七生・竹本太郎「森林史へのアプローチ」(仮) *討論者 藤原辰史

グローバル社会の地域研究を考える

香川大学インターナショナルオフィスでは、2010年2月9日から16日にかけて、オフィスウィークと称して、様々なイベントを開催します。その中で環境史にも関連するフォーラムの紹介をします。2月15日月曜日の午後2時から6時にかけて、仏教圏、ヒンドゥ教圏、イスラーム教圏の比較研究そして特に開発途上国を襲っている急激なグローバル化現象において、めまぐるしい変遷が見られるブータン、ネパール、バングラデシュの現状を理解し、そして、イスラーム歴史社会研究、人類学研究、開発学研究、流通地理学研究など様々な研究視角から、どのような地域研究が今後可能なのかを議論します。このフォーラムのプログラムは以下の通りです。 日時:2010年2月15日 午後2時から6時 場所:香川大学教育学部第3会議室 報告: ブータン開発学研究の立場から     大阪大学 上田晶子 ネパール人類学研究の立場から     立命館大学 渡辺和之 シリア歴史学研究の立場から      東北大学 大河原知樹 ディスカッサント: 流通地理学の立場から         宮城学院女子大学 土屋 純 バングラデシュでの地域活動の立場から グラム・バングラ S. I. カーン

生物学が語る「自然」のポリティックス

日本科学史学会生物学史分科会シンポジウム 生物学が語る「自然」のポリティックス Politics of Biological Discourses on “Nature” [趣旨]  この10年ほどで自然保護のあり方は大きく変わりました。かつて自然保護といえば、人の手が入っていない自然を開発から守ることでした。でも近年では、文化・社会と深く結びついた「自然」が保護の対象とされつつあります。たとえば現在、日本政府は2010年に名古屋で開催されるCOP10に向けて「SATOYAMAイニシアティブ」をすすめています。そこでは生物学者たちが積極的に発言し、日本文化がつくってきたとされる「里山」をめぐる議論に大きな影響を与えてきました。しかし歴史的にみれば、このような生物学者による文化・社会と結びついた「自然」の語りは、決して新しいものではありません。では、過去の生物学者の 「自然」をめぐる語りは、同時代においてどのような政治的な役割をもっていたのでしょうか。このシンポジウムでは、20世紀前半の生物学者・農学者の「自然」をめぐる語りを検討し、生物学史が現在の自然保護に示唆するところを探りたいと思います。今回のシンポジウムでは科学史以外の分野で「自然」をめぐる歴史研究をすすめている演者の方をお招きし、コメントも歴史的視点と環境倫理の観点の双方からお願いしています。 日時:2009年12月13日(日)午後2時~5時 会場:東京大学先端研駒場リサーチキャンパス4号館2階講堂 (アクセス:http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/maps/) [プログラム] ナチス農学の自然観――コンラート・マイヤーを手がかりに 藤原辰史(東京大学・農業史) 日本植民地主義と自然-アジア・太平洋戦争期の緑化運動- 中島弘二(金沢大学・地理学) 狩猟と動物学の近代――1930年代日本における「伝統」の創造 瀬戸口明久(大阪市立大学・科学史) コメント 坂野徹(日本大学) 篠田真理子(恵泉女学園大学) 鬼頭秀一(東京大学) (司会:篠田真理子・瀬戸口明久)