「生物学史夏の学校」のご案内(村山)

生物学史分科会のMLからの案内です。 生物学史夏の学校「生物学史と現代の対話」 今年度の夏の学校は6月23-24日に総合研究大学院大学(神奈川県葉山町)で行われます。すでに参加は締め切っていますが、一部のみ出席も可能ですので、プログラムをお知らせします。とくに2日目午後の特別講演はご自由に参加下さい。 6月23日(13:30-18:00) 標葉隆馬(総研大)STSと生物学史 瀬戸口明久(大阪市大)野生とは何か 東城義則(総研大)動物と地域社会を結ぶ方法(仮)――八田三郎『奈良と鹿』を読む 岩崎秀雄(早大)生命美学プラットフォーム:metaphorest, synthetic aesthetics, biomedia art 高橋さきの 「生きもの」のテクノバイオポリティクス――「生きもの」と宣言するうえで必要なこと 6月24日(9:00-12:00) 藤本大士(東大)<研究動向>身体障害をめぐる医療の歴史研究 天野陽子(東京海洋大)20世紀初頭の生理学における「統合性」 Victoria Lee(Princeton University)東アジア技術史における生命科学史 特別講演(13:30-14:30) 米本昌平(総研大)政治の迂回路としてのバイオエシックス、 戦略としての優生学史研究――1980年代の研究状況 場所:総合研究大学院大学葉山キャンパスセミナー室101・102室 アクセス:http://www.soken.ac.jp/access/accessmap.html

日本人口学会企画セッションの報告(村山)

環境史研究会のメンバーを中心に、2012年6月1日から3日にかけて開催された日本人口学会第64回大会において、下記のような企画セッションを開催しました。溝口常俊さんを研究代表者とする科研「洪水常襲地における21世紀型水環境社会の構築」(課題番号:21401002)に基づき、原宗子先生のご尽力で、復旦大学から歴史地理学の重鎮である葛剣雄先生を招待させて頂き、充実した研究会になりました。 2015年に中国済南で開催される国際歴史家大会の分科会である国際人口学会では、Demographic Changes and the Family in Disaster-prone Areasと題したセッションを企画しています。今回の日本人口学会での議論を踏まえてさらに新たな展開ができればと考えております。 日本人口学会企画セッション「災害常襲地の歴史人口と人口変化」 組織者:村山 聡(香川大学) 座長:鬼頭 宏(上智大学) 討論者:原宗子(流通経済大学):中国環境史の観点から 討論者:渡辺和之(立命館大学):文化人類学の観点から 1.東昇(京都府立大学)・村山聡(香川大学)「近世日本の災害と住民の意識」 2.葛剣雄(復旦大学)「中国史上の巨大災害が人口に及ぼした影響」 3.溝口常俊(名古屋大学環境学研究科)「バングラデシュの洪水と人口変化」 趣旨: 災害は人口現象にどのような影響を与えるのか。直接的に死傷者を生むことも当然あるが、災害の経験は残された人々にも強い影響を与えることが考えられる。 前近代社会においては、洪水のように常態化していた災害においては死傷者が出ることは希であるし、また、現代のバングラデシュのように雨期と乾期が繰り返され、やはり「洪水」が日常であるような場合にも、むしろ柔軟な住民の対応が目立つ。つまり、自然災害イコール死傷者という構図は必ずしも成り立たない。しかし他方で、疫病等の蔓延はやはり決定的な人口減少を生じさせるし、繰り返される自然災害ではなく、数百年に一度起こるような巨大災害においては、事情は異なる。 自然に起因する様々な災害は、災害の起こった時空間を越えて、人口現象に大きな影響を与えているのではないであろうか。 そこで、近世日本、中国史、そして、現代のバングラデシュを対象時空間として取り上げ、「災害常襲地」という歴史環境的前提を踏まえた場合に、歴史的にどのような人口現象が観察できるのか、また、どのような人口変化をその特徴として見出すことができるのか。これらの点に関して三つの報告を用意している。第一に、近世日本について、災害はどのように捉えられ、実際にどのような人口現象への影響が見られるのか、第二に、中国における巨大災害は人口現象にどのような影響を与えていたのか、そして最後にバングラデシュで常に観察される増水・洪水は、その地域にどのような人口変化を生み出していたのか。 これらの三つの報告を受けて、中国環境史の観点と文化人類学的な観点から、報告から得られた論点とエビデンスに関してのコメントを頂き、このテーマに関する有意義な討論の機会を見出したい。

環境史研究会第8回ワークショップ(=「環境史シンポジウム」のご報告)

環境史研究会のみなさまほか関係者各位 17日から18日にかけてエル・大阪(=大阪府立労働センター)で、環境史研究会・大阪市立大学経済学研究科重点研究「健康格差と都市の社会経済構造」主催、身体環境史研究会および医療・社会・環境研究会共済で開催された第8回環境史研究会(=環境史シンポジウム)は非常に充実した研究会でした。年4回の環境史研究会を一気に開催したような内容を含んでいたように思います。 ますます「つながり」の重要性を実感した研究会でした。今回の研究会のオーガナイズをして頂いた瀬戸口明久さんならびに藤原辰史さんのご尽力に改めて感謝致します。 研究会の発展においては、「つながり」が組み込む「ノード」(ヒト)の活躍がますます重要であることを実感しました。他方で、環境史研究においては、「ノード」であるヒトの能力や個性が非常に重要であると同時に、そのような「単一素子」の振る舞いとは異なる「集団現象」や「複合現象」が生じるメカニズムを解明することも大切であることを改めて考えさせられました。 また、原宗子先生が総括で話されていたように、歴史学研究との対話における環境史研究会の課題・方向性として示された、一国史観・発展段階論の克服、エスニシティの実質的対象化、自然科学的理解・思考の組み込みの三点の重要性を確認させて頂きました。 この環境史研究会シンポジウムの後、環境史研究会のメンバーが企画・参画している学会として、日本農業史学会大会シンポジウム「自然災害と地域社会―農業史研究の視点から」が3月28日に九州大学で、また、林業経済学会では、「近代林学の歴史と環境保全ー森林保続思想の世界史ー」と題して3月29日に宇都宮大学で開催されました。 また本年、6月2日から3日にかけて開催される日本人口学会の企画セッションでは、「災害常襲地の歴史人口と人口変化」と題したセッションを、6月3日の午後、東京大学駒場で開催します。さらに、7月7日は日本ドイツ学会主催の公開シンポジウム「脱原発ードイツの選択」を東京赤坂OAGハウスで開催します。こちらは一般公開ですのでどうぞ奮ってご参加ください。藤原さんと村山が司会をします。 さらに、東アジア環境史協会(AEAEH: http://www.aeaeh.org/)では、2013年10月24日から26日にかけて台北で開催される国際学会のペーパー募集が開始されています。この協会に未加入の方で加入をご希望の方は、英語で、Name、Field、Title、Institution、Emailを村山までご連絡ください。学会事務局に連絡し登録してもらいます。なお、会費等は徴収しておりません。台湾中央研究院の支援でホームページの管理などをしています。 長くなりましたが、来年2013年6月には、比較家族史学会主催で「環境と家族」と題した大会を香川大学で開催する予定です。比較家族史学会の学会員に加えて、環境史研究会のメンバーの参加が可能なように調整しています。自然災害、危機管理、ツーリズム、グローバリズム、イマジネーション、イデオロギー、イノベーション、伝統知、学校教育などのサブテーマを考案中というところです。 最後に、次回、環境史研究会第9回ワークショップは竹本さんからご連絡があると思いますが、7月21日にこれまでのように東京大学本郷での開催が計画されています。 2012年3月30日村山記

環境史研究会および大阪市立大学経済学研究科重点研究「健康格差と都市の社会経済構造」主催 環境史シンポジウムのご案内

環境史研究会は、今回、初めて東京を離れ、大阪で研究会を開催します。環境史研究会と大阪市立大学経済学研究科重点研究「健康格差と都市の社会経済構造」との共同主催で、さらに、身体環境史研究会、医療・社会・環境研究会の共催により二日間にわたって開催する少し規模の大きな環境史シンポジウムです。どうぞ奮ってご参加ください。なお、詳細につきましては、また、参加の方法などにつきましては、藤原または村山にご連絡ください。 環境史シンポジウム:災害・周縁・環境 日時:2012年3月17日・18日 場所:エル・大阪(501・504号室)(大阪府立労働センター) 主催:環境史研究会、大阪市立大学経済学研究科重点研究「健康格差と都市の社会経済構造」 共催:身体環境史研究会、医療・社会・環境研究会 近年、環境と人間のかかわりをめぐる歴史研究が盛んになりつつあります。本シンポジウムでは、森林史・農業史・科学史・日本史・中国史など多様な分野で活発に研究をすすめている方々に報告していただき、「環境史」の現在とこれからを考えていきたいと思います。 3月17日(土)(会場:501号室) ■基調講演(13:00-15:00) ➢ 山本太郎(長崎大学) 感染症との共生・・・生態学的、進化学的視点から コメント:藤原辰史(東京大学)・瀬戸口明久(大阪市立大学)・脇村孝平(大阪市立大学) ■周縁の環境史(15:20-18:00) ➢ 池田佳代(広島大学)アメリカ領グアム島 の水資源問題 ➢ 中山大将(京都大学)植民地樺太の農林資源開発と樺太の農学――樺太庁中央試験所の技術と思想 ➢ 香西豊子 「島」と疱瘡――伊豆諸島、とりわけ八丈島を事例として コメント:山本太郎(長崎大学)・飯島渉(青山学院大学) 3月18日(日)(会場:504号室) ■日本の環境史(10:00-12:00) ➢ 戸石七生(東京大学)前近代南関東山村における飢饉と地域社会――天保飢饉と上名栗村古組 ➢ 瀬戸口明久(大阪市立大学)都市と自然――1930年代日本における自然保護運動と社会階層 ➢ 竹本太郎(東京大学)朝鮮総督府山林課長・齋藤音作の緑化思想 ■グローバル環境史(13:10-15:00) ➢ 藤原辰史(東京大学)エコロジカル・インペリアリズム――帝国日本における水稲の品種改良 ➢ 村松弘一(学習院大学) 近代中国における西北開発と環境への認識 全体へのコメント:原宗子(流通経済大学)・村山聡(香川大学) 会場へのアクセス:京阪・地下鉄天満橋駅から300m(http://www.l-osaka.or.jp/pages/access.html)

環境史研究会 第7回ワークショップのご案内

みなさま 環境史研究会の案内です。竹本さんからの案内を掲載します。 環境史研究会メンバー各位 竹本です。 すっかり涼しくなって、東大本郷のイチョウも色づき始めました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。 第7回環境史研究会ワークショップのお知らせです。今回は、主に森林をテーマに3人の方に報告をお願いします。 「日本前近代の森林資源開発と日本人の自然観」について脇野博さんが、「巨樹・巨木からみた薪炭業の生物多様性へのインパクト」について谷口忠義さんが、「ドイツ各邦の森林法と1942年の帝国森林法案」について石井寛さんが発表されます。奮ってご参加ください。ワークショップの後には忘年会(懇親会)も予定しております。あわせて参加いただければ幸いです。 【日 時】 2011年12月17日(土)13時〜18時 *開始時間がいつもより1時間早くなっています。お気をつけください。 【場 所】 東京大学農学部1号館 3F農経会議室 *前回(第6回ワークショップ)と同じ場所です。 【発表題目と概要】 脇野 博(秋田工業高等専門学校人文科学系)「日本前近代の森林資源開発と日本人の自然観」 中谷巌氏は、脱原発は「自然は征服すべきものというベーコンやデカルトに始まる西洋近代思想を乗り越え、『自然を慈しみ、畏れ、生きとし生けるものと謙虚に向き合う』という、日本人が古来持っていた素晴らしい自然観を世界に発信する絶好の機会になるのではないだろうか。」(2011年6月14日 産経新聞「正論」) と述べられたが、はたして日本人は古来から本当に中谷氏が言うように自然と接してきたのであろうか。笠谷和比古氏は、上記のような自然を大切にするという日本人の自然観に対してすでに疑義を呈しておられ、私もこれまで日本の林政・林業史研究に取り組むなかで、疑問を持つようになった。そこで、日本近世の林政・林業に関わるいくつかの事例を通じて、前近代日本人の自然観の再検討に向けて問題提起をしたい。 谷口忠義(新潟青陵大学短期大学部)「巨樹・巨木からみた薪炭業の生物多様性へのインパクト」 日本には数百年あるいは千年以上の時を落雷や病虫害・獣害を乗り越え,同時に人間による伐採を免れてきた歴史的な遺産である巨樹・巨木が存在する。現在68,000本ほど存在するそれらの巨樹・巨木のうち薪炭適合樹種は約1割強である。なぜそれらは伐採を免れてきたのか。経済的なインセンティブからその理由を考えてみた。薪炭用の樹種は,木材固有の性質や運送上の技術,輸送コストといった要因と,需要の有無と規模により,そのまま放置され巨木に向かうか,薪炭として利用されるかが分かれた。炭生産では大木よりも炭木をそのまま焼くことを経済的に選好しており,百年以上の大木は後回しにし,同じ樹種であれば細い木から伐採することになる。そうした選好が生まれる理由は,大木から焼いた炭は爆跳するなど家庭での使用時に不都合な炭だからである。また,生産サイド(費用)面からいえば,窯詰用の伐採に手間が余計にかかるからであった。薪生産では木炭とは逆となっていた。 石井 寛(元北海道大学)「ドイツ各邦の森林法と1942年の帝国森林法案」 森林の維持と保全,森林の持続的管理を課題とする森林政策は森林法を根拠法としている。各国の森林政策の歴史と展開過程を見る場合,どのような森林法が制定されているのか,その特徴がどのようなものかを把握することは必須の作業である。私は今回の報告でドイツの森林法を取り上げたい。ドイツの近代の森林法はフランス革命の影響を受けて,1811年にヘッセン,1833年にバーデン,1852年にバイエルン,1875年と1879年にヴェルテンベルクで制定されている。その内容は州有林と公有林の森林官による国家管理,私有林に対する営林監督であった。帝国レベルの森林法を制定しようとする試みは1919年以降,あったもののプロイセンやバイエルンの反対で具体化されなかった。その試みが具体化したのはナチス期であった。林政学者のEbertsやAbetzの努力によって1942年に帝国森林法案が作成されている。同法案は議決されなかったが,その林政思想は第2次大戦後の1950年のラインラント・ファルツ州や1954年のヘッセン州の森林法に影響を与えるとともに,1975年に制定された連邦森林法にも引き継がれている。本報告では19世紀の各邦の森林法について説明するとともに,1942年帝国森林法案の内容を明らかにして,戦後への影響について説明したい。

第1回東アジア環境史学会閉幕(村山記)

2009年の8月4日から8日にかけて、第1回国際環境史学会がコペンハーゲンならびにマルモで開催された後、台湾中央研究院の当時副研究院長をされていたTs’ui-jung Liu(劉翠溶)氏の発案で、私も含めて当時の参加者有志で発足させたのが、東アジア環境史協会であった。この協会の設立と共に、日本では環境史研究会もやはり有志と共に発足させ、このホームページでもその研究会の案内をしている。 東アジア環境史協会は、その発足から2年という短い歳月で、第1回の国際学会を、10月24日から26日の3日間をかけて、台北にある中央研究院の大会議場等において、学会員の総参加者数87名そして非学会員も含めると146名の参加で開催した。学会員は、中国からは18名、香港から2名、日本から19名、フィリピンから1名、オーストラリア等から2名、ヨーロッパから4名、北アメリカから6名、そして、開催地の台湾からは35名であった。 現在東アジア環境史協会は225名の会員から成り立っているが、会員数の多い順に並べると、中国68名、台湾58名、日本55名、北アメリカ38名、ヨーロッパ14名、オーストラリア等8名、韓国5名、フィリピン3名となっている。韓国からの出席者は、第1回国際環境史学会においてもなく、その影響が出ている。今後、ネットワークが拡大されることが望まれる。 この日本の55名の内、41名が環境史研究会のメンバーである。その内の14名がこの学会に参加し、報告や司会などを行った。26日に開催された学会総会において、学会規約も決まり、初代会長に劉翠溶氏が選出され、本格的な学会始動となった。次回は2年後に再び台湾で開催されることになり、その後、開催可能な国を回ることになる。4年後は中国、そしておそらく6年後は日本での開催となるであろう。 ところで、東アジアという地域の限定でどのような環境史研究が進展するか興味が持たれたところであるが、独自の多民族、多文化、そして戦争等による独自の国際関係を有する地域での個性も十分に認識される学会となり、いずれ、学会独自のジャーナルの発行も予定されている。 ヨーロッパならびにアメリカを拠点として進展が見られた環境史研究に、新たな制度的な基盤が確立されたのである。この場を借りて、劉氏の多大な貢献に改めて感謝の意を表したい。なお、蛇足ではあるが、新たな規約の成立と共に地区代表を決めることになり、今回の日本側からの学会参加者の推挙により、不肖ながら村山が日本代表を務めることになった。あまりに広大な環境史研究の知識の領野に圧倒されるばかりであるが、各専門分野からの集学がより容易になるように可能な限り努力をしたいと考えている。 2011年10月27日

環境経済・政策学会での企画セッションのご案内

みなさま 環境史研究会の喜多川 進さんから学会の案内がありましたので転載します。(村山) 環境経済・政策学会(於長崎大学) 2011年9月24日午前 企画セッション 企画セッションタイトル  環境政策史 サブタイトル  環境政策のパラダイム転換 オーガナイザー:喜多川 進 (山梨大学) 1.企画内容/ ABSTRACT 本セッションは、環境政策における転換点を歴史的視点から明らかにするものである。環境政策の転換点としては草創期の1970年代及び地球環境問題が政治課題化した1990年代が言及されることが多いが、本セッションでは、これまでの環境政策研究では注目されてこなかった1930年代、1950年代、1980年代における環境政策及び環境政策上の理念の萌芽・発展・変容を明らかにする。そして、歴史的考察を通じて新しい環境政策理解に迫る。 本企画セッションの意義は、このような環境政策の歴史的展開の解明のみならず、環境政策研究に関する新しい学際的取り組みを進めることにもある。この20年ないし30年程の間に経済学、法学、社会学、環境史、科学史などの分野での環境政策に関わる研究は大きく発展する一方で、分野間の相互交流はほとんどみられなくなった。すなわち、各分野の発展は、分野間の隔たりを大きくするものでもあった。そのような状況のなかで、本企画セッションは、環境政策に関わる諸分野を歴史的アプローチによって架橋しようとするものである。それゆえ、報告者及び討論者として、これまでほとんど学問的交流のなかった西洋史、環境史、環境法、技術史、環境経済学、政治社会学分野の研究者が一同に会し、歴史的視点をキーワードに環境政策に関する新しい学際的考察をおこなう。これは、環境政策の研究史において国際的にみても前例のない取り組みである。 対象とする事例、時期、国は異なるが、環境政策を歴史的に研究するという視点は、各報告に一貫している。この環境政策研究における歴史的視点の意味については、報告後の総合討論で議論を深める。 各報告の概要は、下記の通りである。 2.セッション構成 座長:及川敬貴 1930年代:保全思想・行政の源流 報告1タイトル/ 「イギリス帝国の土壌浸食をめぐる議論」 水野祥子 九州産業大学 (西洋史・帝国史) 1930年代イギリス帝国の科学者/官僚の間では、土壌浸食が深刻な問題として浮上していた。本報告では、かれらの土壌保全をめぐる議論を分析し、保全思想の枠組みを明らかにするとともに、土壌保全が植民地政策のなかでいかに位置づけられたのかを問う。その際、ダスト・ボウルを経験したアメリカが及ぼした影響についても考察する。 報告2タイトル/ 「環境行政組織成立試論序説―フーバーの革新、ルーズベルトの革命」 及川敬貴 横浜国立大学 (環境法) アメリカの連邦政府では、1970年以来、設置レベルの異なる二つの中央行政機関の連携によって環境行政を推進するという体制が維持されている。しかし、かかる体制の基本形が政治の表舞台に登場し、部分的な制度化をみたのは、1930年代のことであった。それゆえ、ニューディール期の環境行政機構改革に関する考察は、「アメリカの環境行政組織がいかに誕生したのか」という大きな物語を紡ぐに当っての最初の(小さな)一歩となる。 1950年代:新しい政策への胎動期 報告3タイトル/「1950年代における原子力の『平和利用』と放射線防護」 高橋智子 山梨大学 (技術史) 1950年代のアメリカにとって放射能は化学物質汚以上に代表的な汚染物質として知られていた。 その中で原子力の「平和利用」が始まり、はじめて一般住民を対象にした放射線防護が問題にされた。国際放射線防護委員会は今から見ると予防原則に近い「できる限り低く抑える」方針を打ち出し、その考え方は基本的に今日まで維持されている。この時代になぜこうした方針が立てられたのか、議論の経緯を報告する。 報告4タイトル/「主観的公害認定の実態と理論―神奈川県事業場公害防止条例の再評価」 報告者4 野田浩二  (環境経済学) 一般的に革新自治体の登場が地方自治に基づく新しい公害政策をもたらしたといわれるが、1950年代においても公害問題は顕在化しており、地方自治体 (とくに都道府県)は公害問題に直面していた。このときの経験が、その後の制度変革をもたらしとすれば、あるいは1970年代の先進的政策の礎となっていたとすれば、これまでほとんど顧みられていない1950年代から1960年代の都道府県による公害対策に光を当てる必要がでる。本研究では、神奈川県を事例に、事業場公害防止条例下の公害ガバナンスの実態を、行政公文書等から明らかにする。 1980年代:The Brown to the Green?(茶色の頭の政治家の緑色?への転換) 報告5タイトル/ 「1980年代の日本における気候変動政策の展開と環境政治」 佐藤圭一 一橋大学 (政治社会学) 1980年 代後半から主要な政治的争点の一つになった地球環境問題は、それまでの環境政治のあり方を大きく変えるものとなった。「建設族」の一人と考えられていた竹下登が環境族を率いるようになったことは、象徴的な変化と言える。こうした「茶色」の頭の人びとの「緑色(?)」の頭への変化は、環境政治にどのような意味をもったのだろうか。ここでは、地球環境問題のうち、とりわけ大きな影響力を持った気候変動問題を中心に報告する。 報告6タイトル/ 「『環境先進国ドイツ』への転換―コール政権における環境政策の展開」 喜多川進… Continue reading 環境経済・政策学会での企画セッションのご案内

環境史研究会 第7回ワークショップのご案内

竹本さんからの案内を、ご存知ない方のために、東アジア環境史協会が本年度10月に主催するEAEH2011に関して、若干の補足を加えて掲載します。(村山) 環境史研究会のみなさま 竹本です。いつもお世話になっております。8月に一度涼しくなっただけに、ここ数日の残暑は身体にこたえますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。 次回の第7回ワークショップは台湾のEAEH2011の後になります。EAEH2011は東アジア環境史協会が主催する第1回の国際学会です。 [日程] 12/17(土) [報告] 脇野博さん(秋田工業高等専門学校) 谷口忠義さん(新潟青陵大学短期大学部) [場所] 東京大学農学部1号館農経会議室 まだちょっと先のことですが、ぜひ参加いただけますようによろしくお願いします。

環境史研究会 第6回ワークショップのご案内

竹本さんからの案内を掲載します。(村山) 環境史研究会メンバー各位 竹本です。 厳しい日差しが降り注ぎ、梅雨の季節がはやくも終わりを迎えそうです。 みなさまいかがお過ごしでしょうか。 第6回環境史研究会ワークショップのお知らせです。 今回は、「オアシスの水が涸れる日」について中尾正義さんが、「1940年代以降の華北農村における土資源利用の変化」について栗山知之さんが発表されます。奮ってご参加ください。ワークショップの後には暑気払い(懇親会)も予定しております。あわせて参加いただければ幸いです。 【日 時】 2011年7月23日(土)14時~18時 【場 所】 東京大学農学部1号館 3F農経会議室 *前回(第5回ワークショップ)と同じ場所です。 【報告者・題目と概要】 中尾正義(人間文化研究機構)「オアシスの水が涸れる日」 ユーラシア大陸の中央部は、かつては歴史の表舞台であった。名だたる遊牧帝国が交錯し、農業を主とする中華帝国と抗争や融和を繰り返してきた広大な乾燥地域である。わずかの降水しかない同地域では、氷河や多量の降水がある山岳地からの河川水や地下水が最も得やすいオアシスに多くの人々が住み着いてきた。オアシスの水にも、気候変動や人の営みに起因する栄枯盛衰がある。オアシスの水が涸れた昔とオアシスの水が涸れつつある今を語る。 栗山知之(慶應義塾大学文学研究科)「1940年代以降の華北農村における土資源利用の変化―渭河平原・祝家荘を事例として―」 中国における農村景観の歴史は、これまで主に農業史研究の生業論で扱われ、耕地分布・宅地の変化に関する地理学的研究も散見される。しかし、華北畑作地帯を取り上げた事例は見受けられず、近現代の社会変化が個人・集団に与えた影響を村落スケールで分析した事例も極めて少ない。乾燥地に即した生活様式が育まれ、土資源が建材の製造や人間・家畜の糞尿処理に用いられた後、肥料として耕地に施用されてきた華北農村。そこでは頻繁に採土活動が繰り返されるなか、宅地周囲に窪地が拡大してきた。こうした窪地は、住民達が大地に刻んだ歴史資料(土資源利用の履歴を示すもの)にほかならない。本発表では、「土壕」と呼ばれるとりわけ大規模な窪地が宅地を取り囲む渭河平原、陝西省宝鶏市岐山県祝家荘鎮小強村祝西組・祝南組・高家組・王家組で構成される村落で調査を実施、1940年代以降の同村落における土資源利用の変化を明らかにする。

環境史研究会第5回ワークショップのご案内

5月14日に予定している第5回ワークショップについて、井黒さんの発表内容に変更がありましたので、お知らせいたします。それ以外の変更はありません。奮ってご参加ください。どうぞよろしくお願いします。 【日 時】 2011年5月14日(土)14時から 【場 所】 東京大学農学部1号館 3F農経会議室 *前回(第4回ワークショップ)と場所が異なりますのでご注意ください。 1号館3階で、第3回ワークショップのときに使用した部屋です。 以下、変更後の内容です。 ************************************** 【発表題目と概要】 ◎「消えゆく水と現れでる碑(いしぶみ)―歴史的水利用方式にみる環境と社会―」 井黒 忍  (早稲田大学高等研究所・助教) 「水の世紀」とも称される21世紀、沙漠化の拡大や水資源の偏在、水質の悪化など水をめぐる諸種の環境問題が人類の生存を脅かす主要因となりつつある。人間活動が自然環境に負荷を与え、そのリアクションとして環境問題が生じるという意味において、環境問題は人類自身の内面的問題でもある。したがって、問題解決のためには工学的な是正策が追求されることはもとより、人類自身のこれまでの歩み―歴史の中から問題点を抽出し、解決への糸口を探り出す努力が必要となる。そこで注目すべきは、年間降水量500mm以下の乾燥・半乾燥地域における水資源利用に関する歴史的経験である。水資源の有無が食糧生産および生命維持に対するリミティングファクターとなる同地域において、限りある水資源をいかに利用・分配し人類は生き続けてきたのか。水利用に関わる様々な碑刻資料の分析を通して、水利用方式や水利権の形態を考察し、歴史的経験の中で培われた持続可能な水利用のあり方を明らかにする。 ◎「環境史研究の射程」                環境史研究会 発起人 環境史研究会の今後を考えるラウンドテーブル