環境史研究会のメンバーを中心に、2012年6月1日から3日にかけて開催された日本人口学会第64回大会において、下記のような企画セッションを開催しました。溝口常俊さんを研究代表者とする科研「洪水常襲地における21世紀型水環境社会の構築」(課題番号:21401002)に基づき、原宗子先生のご尽力で、復旦大学から歴史地理学の重鎮である葛剣雄先生を招待させて頂き、充実した研究会になりました。
2015年に中国済南で開催される国際歴史家大会の分科会である国際人口学会では、Demographic Changes and the Family in Disaster-prone Areasと題したセッションを企画しています。今回の日本人口学会での議論を踏まえてさらに新たな展開ができればと考えております。
日本人口学会企画セッション「災害常襲地の歴史人口と人口変化」
組織者:村山 聡(香川大学)
座長:鬼頭 宏(上智大学)
討論者:原宗子(流通経済大学):中国環境史の観点から
討論者:渡辺和之(立命館大学):文化人類学の観点から
1.東昇(京都府立大学)・村山聡(香川大学)「近世日本の災害と住民の意識」
2.葛剣雄(復旦大学)「中国史上の巨大災害が人口に及ぼした影響」
3.溝口常俊(名古屋大学環境学研究科)「バングラデシュの洪水と人口変化」
趣旨:
災害は人口現象にどのような影響を与えるのか。直接的に死傷者を生むことも当然あるが、災害の経験は残された人々にも強い影響を与えることが考えられる。
前近代社会においては、洪水のように常態化していた災害においては死傷者が出ることは希であるし、また、現代のバングラデシュのように雨期と乾期が繰り返され、やはり「洪水」が日常であるような場合にも、むしろ柔軟な住民の対応が目立つ。つまり、自然災害イコール死傷者という構図は必ずしも成り立たない。しかし他方で、疫病等の蔓延はやはり決定的な人口減少を生じさせるし、繰り返される自然災害ではなく、数百年に一度起こるような巨大災害においては、事情は異なる。
自然に起因する様々な災害は、災害の起こった時空間を越えて、人口現象に大きな影響を与えているのではないであろうか。
そこで、近世日本、中国史、そして、現代のバングラデシュを対象時空間として取り上げ、「災害常襲地」という歴史環境的前提を踏まえた場合に、歴史的にどのような人口現象が観察できるのか、また、どのような人口変化をその特徴として見出すことができるのか。これらの点に関して三つの報告を用意している。第一に、近世日本について、災害はどのように捉えられ、実際にどのような人口現象への影響が見られるのか、第二に、中国における巨大災害は人口現象にどのような影響を与えていたのか、そして最後にバングラデシュで常に観察される増水・洪水は、その地域にどのような人口変化を生み出していたのか。
これらの三つの報告を受けて、中国環境史の観点と文化人類学的な観点から、報告から得られた論点とエビデンスに関してのコメントを頂き、このテーマに関する有意義な討論の機会を見出したい。