2024年3月14日~15日、ネパールのAkama Hotelにて「気候変動下のジオ巨大災害に関する第1回ワークショップ—ヒマラヤ山脈南縁域における山岳部と平野部の相互作用」を開催しました。

ワークショップの概要や開催趣旨は、こちらからご覧いただけます。

オープニングセレモニーの後、2日間にわたってキーノートセッション、パネルディスカッション、一般セッションを行いました。全4回行われたキーノートセッションでは、キーノート講演者の発表(30分)11件と、この時間にしか発表できなかった一般講演者の発表(15分)5件を行いました。
初日の午前中の最後には、パネルディスカッションを行い、ネパール・インド・バングラデシュの気象庁長官にあたる職を務められたお三方と、アジアの水文気候学プロジェクトの草分けであるGAMEプロジェクト (GEWEX Asian Monsoon Experiment) を率いられた安成哲三氏(総合地球環境学研究所前所長)をパネリストに迎えました。2日目の午前中の後半からは、2会場に分かれての計6つの一般セッションが行われ、合わせて30件の発表が行われました。

本ワークショップ企画の始まりは自然に、トリブバン大学と香川大学の特に進んでいる連携分野である地質学と気候学の分野を含むことを意識し、気候変動と結びつけたMega-Geo Disastersをテーマとしようということでした。ところが、そこからあらためてこの分野を越境した共同の重要性が浮かび上がってきたのがこのワークショップだったように思います。

発表の多くはこの領域に特徴的な現象と結びつけたものでしたが、それらは広く、気候変動やそこへの適応など全球的な普遍性を持った課題と結びついていました。普遍と特殊の間の越境がありました。
また、パネルディスカッションにあるような経験の深い研究者と、PhDを取得する過程にいる若い研究者が一堂に会する世代の越境もありました。若手の育成という面でも極めて理想的な会合だったように思います。
チベット高原南縁域という地域の特性上、ヒマラヤ山脈のてっぺんからベンガル平野の低平地まで、山岳・平地の間の越境も重要でした。その両方の適応のありようには、それぞれに学ぶべきところもあるように思われました。
そして、そもそも地質学という固体地球の課題と気候学という大気科学に属する領域を結ぶという点で越境的でした。しかしこのことは、アジアモンスーンの特性(活発な造山運動に伴う活発な地質活動が作り出す山地の浸食と活発な堆積に伴う広大な平地が、気候変動に伴ってそのありようを変えようとしていること)と結びついた本質的な問題提起でもありました。
国で言ってもインド・バングラデシュ・ネパール・日本・中国の参加があり、さらに米国からも参加がありました。取り上げられる現象のスケールも、身近な乱流から気候、さらにはテクトニックスケールまで。会場参加とオンライン参加を結び付けた点でも越境的でした。その越境のもとで互いに助け合い、学びあった集会だったと思います。
ラマダン期間中でしたので、ムスリムの参加者はお昼の間は飲食ができず、夜のパーティーで会食を喜び合うことができたことも、南アジアに特徴的な状況として印象的でした。

ワークショップの成果としては、日本・南アジアの若手の研究者にCore-to-Coreプログラムの存在を印象付けたことや、日本の支援を印象付けたことが挙げられます。集会の研究発表は多岐にわたって問題の全体を活写しており、これはぜひジャーナルの特集号として残したらどうか、という意見も出ました。本ワークショップを通してAsiaPEXなどアジアの気候変動研究プロジェクトの認知度を上げることができ、AsiaPEXのひとつのプログラムとしての自覚を育てることもできました。南アジアの気候研究枠組みであるSAMA (South Asian Meteorological Association) のバングラデシュ・ネパールでの活動の活性化に役立ったことも大きな成果と言えます。

オープニングセレモニーでの挨拶(長谷川氏)
パネルディスカッションの風景(Shrestha氏、Karmakar氏、Tyagi氏、スクリーン上に安成氏)